
NEWSTaro Kiguma
陶芸家リサ・ラーソンの生涯を孫娘の映画監督が捉えた映画『リサ・ラーソンがいた時間』が東京・銀座のシネスイッチ銀座やアップリンク吉祥寺で公開中だ。本作は、2024年に92歳で惜しまれつつこの世を去った北欧スウェーデンを代表する陶芸家リサ・ラーソンの晩年の姿を、孫娘である映画監督エミリア・エクマン・ラーソンが2017年から8年間にわたってカメラで記録したドキュメンタリー作品だ。愛らしい動物や子どもの陶器作品で世界中から愛された彼女のパブリックイメージにとどまらず、力強く創作に没頭する一人の芸術家としての真実の姿や葛藤、家族への愛が描かれていく。

© 2025 Kamlert Film AB, Film i Skåne AB, Sveriges Television AB Äb0

リサ・ラーソン(左)とパートナーのグンナル・ラーソン(右)。 © 2025 Kamlert Film AB, Film i Skåne AB, Sveriges Television AB Äb0
映画では、リサの70年以上にわたる人生と創作のパートナーであった画家の夫、グンナル・ラーソンとの深い絆と、彼の死がもたらした大きな喪失感が描かれている。二人が出会ったのは1950年のヨーテボリで、当時陶芸を学んでいたリサと美術学校の学生だったグンナルはクリスマスバザーで知り合い、1952年に結婚した。リサにとってグンナルは「私にすべてを教えてくれた」と語るほどの最大の理解者であり、創作の支えであった。2020年にグンナルが他界した際、一家はスコーネ地方の別荘に集まり、リサ自らが創り煙突の灰で色付けした骨壺に骨を納めるなど、創作というラーソン家らしい方法で別れに向き合った。グンナルの死をきっかけに、リサは孫のエミリアに対してカメラの前で自らの内面や人生を率直に語り始めるようになる。
リサ・ラーソンが世界的な陶芸家へと歩むきっかけとなったのが、スウェーデン最大の陶磁器メーカーであるグスタフスベリとの出合いだった。スモーランド地方で育ち、幼少期から手を動かすことが好きだったリサは、学校卒業後にコンペに出品した花器が当時巨匠と呼ばれたスティグ・リンドベリの目に留まり、1954年にグスタフスベリへ入社する。1958年には、夫グンナルの助言を受けて制作したふくよかな女性像のブックエンド「ABC少女」が大ヒットし、経営不振に陥っていた会社を救う代表作となった。その後も娘の姿から着想を得た「子ども」シリーズや、聖ルチア祭をモチーフにしたベストセラー「アドベント」シリーズなど数々の名作を生み出し、会社を支え続けた。退社後も元同僚らと独立工房を設立するなど、グスタフスベリで培われた伝統と技術は彼女の生涯の創作の基盤となった。

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映画監督のエミリア・エクマン・ラーソン。 © 2025 Kamlert Film AB, Film i Skåne AB, Sveriges Television AB Äb0
芸術家一家の中で育ち、自らも創作の道を模索しながら不安を抱えていた孫娘エミリアと、人生の終着点へと向かうリサとの対話は、本作に深い奥行きを与えている。「家族との時間を大切にしながら、創作を続けることはできるのか」というエミリアの問いに対し、リサはかつて仕事に追われ子どもたちとの時間を十分に持てなかったことへの後悔や罪悪感を明かす。一方で「仕事が一番」「天才的な何かを創れると思っていたが叶っていない」と語り、90歳を超えてもなお自身の才能に満足せず創作へ情熱を燃やし続ける姿も見せる。 二人の対話を通じて、創作とは単なる成功や評価のためではなく「自分の世界へ没頭し、心が安らぐ場所へ入り込むこと」であるという本質が浮き彫りになっていく。カメラ越しに向き合う中で、世代を超えた二人の女性は悲しみや不安を共有し、互いにとってかけがえのない存在となっていく。

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「私は祖母にずっと憧れていて、自分も祖母のようにアーティストになるのだと思っていた。でも同時に、彼女はどこか遠い存在で、捉えどころのない人だった。いつも忙しく動き回っていて、祖母の膝に抱かれていた記憶もほとんどない。私が唯一、祖母が静止している姿を見たのは、粘土の前に座っている時だった。いつもの笑顔は消え、探求心と集中力に満ちた表情へと変わる。その姿に私は魅了された。私は祖母の手をじっと見つめていた。泥だらけで、力強い手。私は向かい側に座り、粘土の塊をこねながら、自分にも祖母と同じ特別な何かがあるのだと、必死に彼女に伝えようとしていた」(エミリア・エクマン・ラーソン)

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陶芸家としての偉大な生涯の足跡だけでなく、それまでに流れていた時間を過ごした家族との関係性や本人の後悔なども含めて、しっとりと深く描けているのは、実の家族であるエミリアが監督であるからだろう。日本で大人気の陶芸家リサ・ラーソンの知られざる一面が凝縮されている作品だ。
『リサ・ラーソンがいた時間』
配給:ミモザフィルムズ
2026年9月18日(金)よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開中