
ARCHITECTURETaro Kiguma
建築家、ミケーレ・デ・ルッキによるプライベートブランド「Produzione Privata」が日本に上陸した。イタリアの高い職人技術や上質な素材を生かした家具や花瓶やLED照明を取り揃える。「それぞれのプロダクトは物語を持つ」と力説するミケーレに話を聞いた。
「Produzione Privata」は、工業的な大量生産に対するアンチテーゼとして生まれたブランドで建築(Architettura)、芸術(Arte)、職人術(Artigianato)の「3A」を掲げている。椅子やソファ、花瓶や照明などの数々のプロダクトは時代を超えて受け継がれてきた、イタリアの高度な職人技を生かすようにデザインされ、一つ一つ職人の手により丁寧に作られている。ミケーレ・デ・ルッキが全てをデザインしている。ブランドは1990年に誕生し、現在はミケーレ・デ・ルッキの息子のピコ・デ・ルッキ(最上部写真の右)が率いている。
ーこのブランドにどのようなメッセージを込めたのでしょうか?
このブランドは「それぞれのプロダクトは物語を持つのではないか?」という強い思いから始めました。プロダクトは単に道具として存在するだけでなく、自らが自発的に語る語り部だと思うのです。時代背景であったり、プロダクトを生み出した人の物語であったり、それを手にした人の物語を語ると思います。プロダクトが人の手に渡った時、そこから始まるもう一つの物語が始まると思うのです。それは時代を経て、より大きな物語となって語り継がれていきます。
そう考えると建築家やデザイナーの責務はプロダクトを通じて物語を演出することではないでしょうか? 私たち作り手の運命とそれを手にする人の運命はどこかで絡み合っていくのです。建築やプロダクトは、一般的な人たちにも何を語っているかが伝わりやすい時代になりましたし、人々も興味を持っています。プロダクトは必ずしもその機能だけが大切なわけではなく、ものによっては機能が全くないのに人に語りかけるものもあります。時には役割を持たないものの方がより人の心を揺さぶります。
ーご家族に向けて作ったという作品が魅力的でした。エピソードを聞かせて下さい。
花瓶のことですね。私の妻は山の植物や野原に咲いているお花をそのまま、もしくはドライフラワーにしたり、枝とか葉っぱと合わせて飾ることが大好きです。そのため私は、花瓶をつくってみました。

Vaso Ceramica(グレーズド・ホワイト) 275,000円。Coutersy of Produzione Privata
しかし彼女はこの花瓶をどう評価しているかっていうと「まだまだ満足していない」と。完璧なものからはほど遠く、大きすぎるか平すぎるか背が高すぎるか、白すぎるか赤すぎるかなどいつも文句を言われます。でも彼女が言ってることには意味があると思っています。お花を生かすための花瓶なので、花瓶自体が目立つべきでない、もしくは背が高すぎてもいけない、などの要件がありますよね。彼女にはいつも気づかされます。そういう意味でも、物語とプロダクトというのは常に一体ではないでしょうか?

ミケーレ・デ・ルッキ(右)と妻のシヴィル・キヒェラー(左)。Coutersy of Produzione Privata
ちなみに、この花瓶に関しては裏返しても大丈夫ですよ。メンフィスの時代には逆さにすることがメンフィスのデザインでした。このプロジェクトの花瓶も実は3つのバリエーションをつくったんです。1つは、この採用したデザイン。もう一つは下の線が全くないものすごくシンプルなもの。もう一つはこれをちょうど逆転させた形。結局はこれだけが残りました。
これらは全部、少量しか生産できなくて数点しか存在しません。この花瓶だと今までで 20個しか作っていません。というのは、型にはめている型ものではなくて、職人の手によって作られているので、1度に2個しか生産できないのです。これらを作ってくれる職人たちは多くがメンフィス時代をともにした職人たちです。本来こういう花瓶は、型取りをして同じものをバーッと流し込んで作りますよね。しかし、これらは一つ一つ人の手によって作られているので、仕上がりが不完全です。毎回、若干どこかが違う。それこそが人の手によって生まれてくるものの美であり、かけがえのない工芸であると、私は感じています。
作る人も、その気にならないと作れない、オートクチュールのようなものです。それからリミテッドエディションも作ってます。それは 1回作り終わったらもう二度と作らないという限定的なものです。そして、私のサインを入れています。作った日付も何年何月と入れてます。基本的には全てが受注生産です。

Giardino(ローズ) 88,000円。Coutersy of Produzione Privata
ー「メンフィス(Memphis)」とこのブランドについての関係を教えていただけますか?
メンフィスが誕生したのは45年前、1981年のことです。当時、私は29歳でした。メンフィスは私にとっての見習い期間であり、デザインが何のためにあるのかを学び、理解した場所でした。そして、デザイナーという職業における最も重要で中心的な価値観は、この時代に培われました。メンフィスとは私が若く、そして非常に、非常に楽観的でハッピー、そして何の不安も心配もなかった時代のことです。メンフィスは、今とは全くことなる価値観を持っていました。というのも、私たちはプラスチックを大量に使い、デコレーション(装飾)も多用していましたから。とてもカラフルでした。それから、とてもラジカルでした。
なぜなら、それが1980年代という時代だったからです。80年代はそういう価値観を受け入れる時代だったのです。私はデザインはその時代の社会の精神と深く結びついていると思っています。80年代の社会はとても幸せで、とてもポジティブで、とても楽観主義に満ちていました。そしてそれは、まさに「夢」そのものだったのです。ご存知の通り、その後時代は変わりました。私たちはもう当時ほど楽観的ではいられませんし、平穏だとも思いません。現在の私たちは資源の枯渇問題や、文化的な対立といった問題に対処しなければなりません。また多くのものを消費しすぎてはならないという前提で生きています。自分たちが生産するものや行うことのすべてに慎重にならざるを得ない時代です。ですから現代は、メンフィスが生きた時代の精神とは大きく異なります。私にとってメンフィスは非常に重要なものでしたが、それはもう終わったことなのです。
そう語る、ミケーレによる「Produzione Privata」の主なターゲットは「物のもつ象徴的な価値に敏感なコレクターや専門家」だ。たしかに素材の良さや洗練されたデザイン、高度な職人技術や不完全な美など、その価値が理解できるユーザーにしか似合わないかもしれない。また、「Produzione Privata」を現代の際限ない大量生産や行き過ぎた商業主義に対するアンチテーゼと考えると、非常に雄弁で挑戦的でラディカルに感じた。実は1980年代の熱い「メンフィス」という大きな潮流にも接続しているのではないだろうか。日本での取り扱いは、ツナシマ商事。基本的には受注生産となるが、一部はショールームで見ることもできる。
お問い合わせ:ツナシマ商事 03-6712-5721