ARTTaro Kiguma
アーティスト真鍋大度による海外初の個展『RELATIONAL TIME – Life Beyond Simulation』が、台湾の台中市立美術館(TcAM)にて2027年1月3日まで開催されている。生体信号を処理することによって生まれる新しい表現からAIエージェントを駆使した、現在進行形の表現まで、真鍋が20年に渡って探求してきた独自世界の集大成。建築家ユニット・SANAA設計の「台中緑美図」内にある同館のダイナミックな空間と共鳴する展覧会だ。

Installation view of Exhibition Room A at RELATIONAL TIME – Life Beyond Simulation. Courtesy of Taichung Art Museum / Photo_Foufa Studio
東京を拠点に活動するアーティスト、プログラマー、作曲家である真鍋大度は、2006年にRhizomatiksを設立して以来、プログラミング、音楽、ビジュアルアート、パフォーマンスを横断する活動を展開してきた。初期には筋電位などの生体信号を音や光、映像へ変換し、身体とテクノロジーの関係性を探究し、話題を呼んだ。近年では神経回路、人工生命、AIエージェントへと研究領域を広げている。主な実績として、リオ2016大会閉会式での東京2020フラッグハンドオーバーセレモニーの技術開発やAR演出、坂本龍一、Perfume、Björkらとのコラボレーションが挙げられる。さらに欧州原子核研究機構(CERN)やSETIなどの研究機関との連携を通じたリサーチも行っている。
20年以上にわたる探究の成果とも言える本展は、日本・香港・台湾の領域横断的なチームが協働。日本から輸送した音響システムを高さ4〜10メートルの空間に緻密に調整・配置するなど、建築上・技術上の課題を乗り越えて実現した。会場では視覚に頼らない鑑賞機会や手話対応の回を含む「インクルーシブ・ツアー」やワークショップも予定され、先端技術と身体感覚が交差する場となっている。
本展では、台中市立美術館のために特別に制作された3つの新作インスタレーションが「Room A」「Room B」「Room C」にて発表されている。これらは人間の身体、知覚、計算システム、記憶に至る異なる時間スケールを探り、変化し続ける世界を構築する。
「Room A」は、人工生命の個体が生まれ世代を重ねる世界を壁と床の映像と音響で表現する。AIエージェントによる対話を並行して展示し、生命の変化と言葉の関係を探る。「Room B」では、観客の位置や動きを仮想世界に入力。一定時間ごとに動きを解析したAIが議論し、映像生成やエフェクトのコードをリアルタイムで更新・変化させるため、観客自身がシステムの一部として参加することとなる。「Room C」は、観客の位置をハエの視覚モデルへ入力し、神経活動をディスプレイと音で表す。変化した神経回路は毎朝初期化されず会期を通じて蓄積される。
本展を通じて観客は、異なる時間の重なりを体験し、人間とは異なる知覚を通じて自己や他者の存在、そしてAIや環境との間に生まれる新たな関係性を捉え直す機会となる。
本展は、身体や脳、培養した神経細胞を通じて人間を知ろうとしてきた、私の制作の延長にある展覧会です。今回は初めて、計算によって生み出される人工生命とAIエージェントを展覧会の中心に据えました。
その原点の一つに、自分の顔へ電気刺激を与え、意思とは無関係に表情を動かす実験があります(上のYouTube動画)。また、筋電位センサーで自分の表情を読み取り、電気刺激によって他の人の顔へコピーすることも試みました。表情と感情はどのように結びついているのか。身体にはどのような可能性や限界があるのか。これらは、人間を知るための作品制作でした。
ダンサーとの共同制作でも、この問いをさまざまな方法で探ってきました。動きに音や映像が即座に反応する作品から、身体の動作を解析し、機械学習によって新たな動きや振り付けを生成するプロジェクトまで、身体と計算の関係を広げてきました。
人間の脳を使った作品では、脳波を分類して脳の状態に応じてシステムを変化させる試みから、fMRIによる脳活動の解析へと進みました。京都大学の神谷之康先生との共同制作では、脳活動のデコーディングを通じて、頭の中で思い描くイメージや、音楽を聴くときに浮かぶイメージを探ってきました。
その後、東京大学の高橋宏知先生とラット由来の培養神経細胞を用いた作品を制作し、さらに同じく東京大学の池内与志穂先生、ソフトバンクとともに、ヒトの脳オルガノイドを用いた研究と制作に取り組みました。生きた神経細胞を使うプロジェクトでは、高密度に配置された微小な電極で刺激を与え、活動を読み取りました。報酬と罰を用いて、よりよい音楽の生成を目指す仕組みや、音楽のジャンルに対する神経活動の違いを可視化する試みも行ってきました。
こうした制作を連続して続ける機会に恵まれるなかで、私の関心は、身体や神経の反応が、経験や記憶、他者との関係を通じてどのように変わっていくのか、という問いへとつながってきました。
人工生命は、研究と芸術の双方で長く扱われてきた領域です。そこに今回、AIエージェントが自律的に活動し、人間の目が届かないところでも関係を結んでいく社会への関心が重なりました。エージェント同士が作る社会は、どのようなものになるのか。その問いが、本展の出発点の一つです。
複雑な社会を考えるうえで、私が注目したのは、エージェントがともに考える「議題」と、思考の時間の違いでした。その場の状態を見てすぐに判断すること。時間をかけて深く考えること。長い記憶を参照すること。同じ議題に向き合っていても、何を参照し、どのような時間をかけるかによって、判断や関係は変わっていきます。
私たち人間にも、異なる時間があります。意識的な判断を伴わない反射。身体の状態を感じながら行う動作。記憶をたどり、概念を扱い、頭の中で過去や未来を行き来する思考。そして、神経回路を繰り返し信号が通ることで、その後の応答の傾向が変わっていくこと。こうした蓄積も、記憶や好み、意識について考える手がかりになります。
本展を三つの作品に分けたのは、こうした時間の違いを、それぞれのかたちで扱うためです。微細な反応が生まれる時間、身体を通して感じて動く時間、そして経験や関係が蓄積する時間。そこには速さの違いに加え、出来事が記憶となり、その後の応答を変えていくという時間の性質の違いもあります。
三つの作品は、どの順番から体験していただいてもかまいません。この文章が、作品を作る際の思考を知り、それぞれの空間に流れる時間と、そのあいだの関係を感じる手がかりになればと思います。
『RELATIONAL TIME – Life Beyond Simulation』
台湾・台中市立美術館 407011 臺中市西屯區中科路2201號
2026年10月3日〜2027年1月3日