
INTERIORTaro Kiguma
2026年で10周年を迎えたポルトローナ・フラウ「レプリ」シリーズを振り返る。イタリア・ミラノを拠点とするデザイナーの大城健作とポルトローナ・フラウは、歴史的家具ブランドの豊かな世界観を丁寧に、かつモダンに拡張している稀有で本質的なコラボレーションではないだろうか? 「レプリ」シリーズをデザインしている大城に100年以上の歴史を持つイタリアの名門ブランドとの取り組みについて聞いた。
(上写真)「レプリ チェア」(左)と「レプリ アームチェア」(右)。ラグジュアリーホテルなどハイエンドなコントラクト需要とホームユースの双方で高い支持を得ている。
ー10周年おめでとうございます。コラボレーションのきっかけを教えてください。
ポルトローナ・フラウとのコラボレーションは、2016年に発表した「レプリ」のオットマンからはじまりました。2015年の春頃、まだバーバー&オズガービーの事務所にいた頃です。もともと事務所とは「在籍は3年を目処にする」と話していて、当時はロンドンに住んでいました。ちょうど11年前の今日、6月2日(インタビュー収録の当日)、ポルトローナ・フラウから声をかけていただきました。新しいデザイナーを探しているタイミングだったようで「何か一緒に試してみましょう」と、コンペのような形で機会をいただき、ブリーフィングが届きました。
その後、イタリアに戻って本社の工場に見学に行きました。革の部門の素晴らしい手仕事に非常に感銘を受けましたし、ブランドの歴史も深く学びました。その時、工場に併設されている「ポルトローナ・フラウ・ミュージアム」で見た1920年頃の広告のイメージがとても印象的でした。ドレスを着たとてもエレガントな女性が椅子に座っているイラストです。職人の高度な革張りの技術を目の当たりにしたのと同時に、女性のエレガンスを表現した広告ビジュアルが心に残りました。その広告の強いイメージが心に残ったままミラノに戻り、ブランドから「ブランドのDNAを継承しながらも、シーティングシステムを現代的に解釈してほしい」というテーマを頂きました。そこで、ドレスを着たエレガントな女性をコンセプトに「レプリ」シリーズの最初のプロダクトとなるオットマンをデザインしました。

1924年に広告に使われていたイラスト。ジョヴァンニ・ナンニによるもの。
イラストでは女性が「128」と呼ばれていたアームチェアに深く腰掛けて、ゆっくりとタバコを燻らせている。その煙によって「FRAU」とブランドの名前を表現している。当時、女性が公の場で喫煙するということは、それまで男性のものであった習慣や特権を打ち破る「自由で自立した新時代の女性像」を象徴することであり、非常に新しくて大胆な広告表現だった。

「レプリ オットマン」シリーズ(2016年)。奥から121x45cmサイズ、106x106cmサイズ、39cmx39cmサイズ。
ーこのオットマンには、どのような文脈を込めましたか?
1910〜20年代にヨーロッパでは、女性たちが社会に進出していく上でファッションが大きく変貌しました。コルセットから身体が解放され、洋服はよりスマートなデザインへ移り変わっていきました。女性の社会進出の流れを意識し、時代の変化をデザインに落とし込むことに挑戦しました。このオットマンは女性のエレガントなシルエットやドレスの腰に細いベルトを締めているような姿を表現しています。座面はカピトンネというボタン留めの手法を用いています。ファッション的な文脈を強調すると同時に輪郭を綺麗に表現するため、座面中央から4つのプリーツを施しており、職人の高度な技術なしには実現できないディテールになっています。
当時、ポルトローナ・フラウはブランドが持つ歴史やクラシックな重厚感に外部のデザイナーとしての新しい視点をどう掛け合わせるかに期待していたのではないかと思います。両者により新しい表現が生まれることを、楽しみにしてくれていたのだと感じています。

「レプリ オットマン」のディテール。ドレスのウエストを細いベルトで締めたような、エレガントなシルエットを表現している。
ーその後シリーズも増えましたね?
その後、アウトドア・バージョンを2022年に発表しました。ポルトローナ・フラウが初めてアウトドアコレクションを発表するという大きなタイミングで、そのコレクションの一部となりました。ポリプロピレンのロープを編み上げて構成するアウトドア家具で、通気性を保ちながらボリュームを持たせる部分は編み目にゆとりを持たせ、引き締める部分は編み目を密にすることで編み目にグラデーションを生み出している点がポイントです。

「レプリ アウトドア」(2022年)。
ー大城さんの「レプリ」は、ブランドの近年のアイコンのひとつに成長してきているように見えます。
当初は、ここまで多くのお客様に支持されるとは思っていませんでした。徐々にお客様に支持され、ブランドの中で大切に育まれてきたシリーズだと感じています。「レプリ」が時間をかけてアイコン的な存在になってきていることを感じます。10年近く経ち、ファミリーとしてチェアを加えようという話になり、2025年にチェアを発表しました。
「レプリ チェア」と「レプリ アームチェア」は、2025年のミラノデザインウィークでブランドの「The Five Seasons」の一部として発表された。これによってシリーズはクラシックなカーブやドレスのウエストを思わせるような「レプリ」ならではのアイデンティティを保ちつつ、スツール、アームチェア、オットマン、ベンチ、プフにまでモデルを広げ、多様なニーズに対応することになった。ひとつのオットマンを起点としてイタリア家具ブランドの近年の潮流「ファミリー」としてシリーズを拡張して、順調に歩みを進めている。
ー今までのコラボレーションを振り返ると?
やはり、それぞれ強い個性があるブランドとコラボレーションするのがベストだろうと思います。個性と出合うことによって自分の想像以上のアイデアが生まれますし、ブランド側からもアイデアが生まれてきます。要はお互いの知識や経験だけでは想像することができないものを生み出すというのがコラボレーションをする魅力だと思います。デザイナーがすでに見えているゴールをブランドが正確にそれを作ってください、っていうことではなくて、まだ見えていないものを探りながら一緒に作っていく。純粋にパートナーとして一緒にものづくりすることが大事だと思います。僕はブランドに寄り添って、おもしろいものというか、いいものを作ることに専念します。そのために職人さんの技術や知識をどんどん取り入れていきますし、デザインもどんどん変化させていきます。個人的な経験や知識だけでデザインを完結させるのはデザインの可能性を制限してしまうことに繋がると思っているからです。
一方でブランド側も自分のアイデンティティを見失う時があると思います。私たち外部との協業を通じて新しい風を吹き込み、異なる視点や価値観を取り込んでいくことで自らを改めて確認する。それが新陳代謝に繋がるのではないでしょうか? そしてこれだけ歴史あるブランドですから、時代とともにプロダクトの価値やその解釈も変容してきただろうと思います。自らのアイデンティティを守りつつも時代と共に変化していくことによってブランドの価値を未来に繋げていけるのだと思います。
いいデザインはすでに世の中に溢れているので、必要以上にものを増やさず、しっかりしたものを作るという意識も強く持っています。ユーザーと一緒に育てながら「レプリ」ファミリーを拡張していくという流れです。一つ一つ集中して、丁寧に取り組んでいます。また、このブランドがおもしろいなと思うのは、毎年新しい企画を出して、新しいデザインを次々と市場に投入していくわけではないという点です。ブランドを支持してくれるユーザーを大事にし、その声に耳を傾けながら自然と次のデザインへ進化させていく。ユーザー、ブランド、デザイナーの3者の自然な関係だと思っています。
自分の仕事はスローデザインに近いと思っています。いつもプレゼンテーションしているわけではなく、必要なタイミングが来たときにデザインしています。「レプリ」アームチェアもこのようにして生まれましたし、スローなスタンスは重要でポルトローナ・フラウもトレンドに流されることなく、真のラグジュアリーを作っていると思います。自信の現れとも言えるかもしれませんね。

1977年、沖縄生まれ。イタリア・ミラノのScuola Politecnica di Designを1999年に卒業後、ピエロ・リッソーニ率いるLissoni AssociatiやロンドンのBarberOsgerby勤務を経て、2015年にミラノにて自身のスタジオを設立して独立。ポルトローナ・フラウ、B&B Italia等イタリアのトップブランドをはじめ、タイムアンドスタイルやアンビエンテックなど日本のブランドとの協業も多い。創作の領域は家具、照明、キッチン、建築など多岐にわたる。EDIDA他受賞歴多数。公式サイト